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異説クラブ

秘密兵器を探るだけがスパイではない ― 労働者の怒りと闘争・赤狩りを体験したバーンスタインが史実を基に描く

男の闘い ジャック・キーオ 1970
炭鉱に沈む夕陽を捉えた導入。鉱山から引き上げてくるトロッコを写し、男達が出てくると背後に大爆発が起こる。ジェームス・ウォン・ハウの見事なキャメラ。マーティン・リットの静と動の演出で男たちの重いドラマを始めると宣言するようだ。ヘンリー・マンシーニの音楽。
1876年。ペンシルベニアの炭鉱。アイルランドの移民達は、ジャック・キーオ(ショーン・コネリー)をリーダーに〝モリー・マガイア〟という秘密結社を結成。苛酷な労働と生活のための闘いを繰り返してる。そこに労働者を装い、実は会社サイドの依頼で警察が送り込んだスパイ、ジェームス・マッケナ(リチャード・ハリス)が乗り込んでくる。労働者の怒りと闘争を赤狩りを体験したウォルター・バーンスタインが史実を基に描く。社会派ドラマ。
1950年代初頭、冷戦勃発を期に、アメリカでは共産党員ばかりでなく、そのシンパをも摘発する「赤狩り」が始まっていた。中心になっていたのは米下院の中にあった非米活動委員会(the House Committee on Un-American Activities)で、その組織の中心人物が共和党のジョセフ・マッカーシー上院議員だった。
赤狩りの網は意に染まぬ国務省の官僚だけでなく、ハリウッドの映画関係者にも及んだ。
たった一度、集会に参加したことがある、といったことだけでも摘発の対象とされ、召喚されると、過去の行為について尋問にかけられ、他人を密告するか、監獄行きかを迫られた。絶望して命を自ら絶ったものもいた。自由にものが言えず、いつ友達に裏切られ密告されるかと恐れ、またいつ職場を解雇されるかと悩み、非米活動委員会の尋問を拒否すると刑務所に入らなくてはならなかった。「自由の国」であったはずのアメリカで、思想・表現の自由が抑圧されたのだ。
この時代を生きたハリウッド関係者や劇作家による作品は少なくない。劇作家のアーサー・ミラーは巻き込まれる人々の精神とその葛藤を ― 未だ赤狩りが終わっていない1953年1月にドラマにした「るつぼ」は、アメリカのセイラムという田舎町で行われた苛酷な魔女狩りの形を借りてニューヨークで初演された。この戯曲は今日も上演されている。排外主義と「テロとの闘い」の時代にますますその現代性が浮き上がってくるだろう。


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