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異説クラブ

ソナタの伝統に対する中期の積極的破壊工作が、再び秩序ある建設の方向に展開する。その最初の試作が変ホ長調だった。

ソナタの伝統に対する中期の積極的破壊工作が、再び秩序ある建設の方向に展開する。その最初の試作が変ホ長調だった。

変ホ長調はこのすぐあとに作曲される交響曲第3番《英雄》にも使用されることになる調性です。

普通楽曲の開始の調子は、楽曲の主和音で始められるのが習慣で、ハ長調ならばハ長調の主和音、変イ長調ならば変イ長調の主和音といった具合です。したがってこのソナタを初めて耳にした人は、楽曲の開始の最初の和音を聞いただけでは、この曲が一体何調であるのかが判らなかったのは当然です。
その後に頻繁に出現する音楽の一時中止のフェルマータは、それによって曲は進行するのかしないのか、聞く人はベートーヴェンの悪戯によって、煙に巻かれた思いだったでしょう。ここ に茶目っ気たっぷりのベートーヴェンの得意顔が見えるようです。
幻想的な曲想とはほど遠い、古典的でかっちりした曲ですが、初期作品と比べて格段に発展しており、演奏効果や、内容の進歩が著しい作品です。
4楽章で構成されており、緩徐楽章がない作品です。第2楽章と第3楽章にも新しい趣向が凝らされていて、第2楽章は四拍子のスケルツォであり、第3楽章にはメヌエットを、つまりスケルツォとメヌエットの楽章を並列に配置するというようなことを試みています。 通常スケルツォは三拍子なのに、二拍子です。この指示はスケルツォ「風」、つまり、諧謔的とかおどけた性格と思ったほうがいいかもしれません。第3楽章はメヌエットです。1曲のソナタの中にスケルツォとメヌエットが並存するのも変わっています。
どの楽章もメロディックでかっこよく、第4楽章の冒頭のメロディが角笛を想起させることから、『狩』の愛称で呼ばれることもあります。
イン・テンポで進行していたものが突然立ち止まるように、唐突とも思えるような休止やフェルマータによる運動停止が出てきて、人生を一度振り返るような意思が透けて見えます。しかも、変ホ長調という英雄的な調を使用していますし、行進曲的な音型も出てきますから、(遺書内の)「強く生きていこう」という宣言とのつながりも感じます。
このようにベートーヴェンが宣言した「新しい道」が何を意図したのかは判らないにしても、この作品31の3つのソナタを創作の大きな流れのなかで観察してみると、以上のような作品の特徴が浮かび上がってくるのです。
1801年に着手され、第16番、第17番(テンペスト)のピアノソナタと並行して作曲された結果、1802年の初頭にはほぼ完成に至っていたとみられている。この曲が世に出されたのは1804年、楽譜出版者のハンス・ゲオルク・ネーゲリが刊行した『クラヴサン奏者演奏曲集』の中に第8番『悲愴』と合わせて収められたのが最初だった。現在の作品31が3曲まとめられたのは1805年にカッピが出版した版からである。新作のピアノソナタがひとつの作品番号にまとめられるのは作品31が最後となる。


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