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異説クラブ

曲の美しさに感動を抑えきれなくなったカラヤンが涙を流した空前絶後の名演奏を聴く 第24盤 ワーグナー パルジファル


宿願〜この録音のリハーサル中に曲の美しさに感動を抑えきれなくなったカラヤンが涙を流した

カラヤンはじめてのデジタル録音となったアルバム。《パルジファル》はカラヤンが70歳になったら録音したいと考えていた作品で、まさに念願叶った録音といえるでしょう。ベルリン・フィルの演奏も素晴らしく、究極のカラヤン美学が実現されている。第19回レコード・アカデミー賞オペラ部門賞を受賞しています。

DGG 2741 002 カラヤン・ベルリンフィル ワーグナー・パルシファル全曲

聖杯と聖杯守護の騎士団の物語

ワーグナー最後の作品であるこのオペラは、「舞台神聖祝典劇」と名づけられた。ワーグナーはこの曲をバイロイト祝祭劇場でのみ完全に上演される作品として、彼の死後30年間 ― 1913年まで同劇場に独占上演権を与えた。
物語は中世スペインのモンサルヴァートの聖杯城に近い森の中。クリングゾルの魔法の城。クリングゾルはかつて聖杯の騎士団への参加を望みながらも信心不足で拒否された恨みから魔法の城を築き、魔性の花の乙女を集めて騎士たちを堕落させるようになっていた。
クリングゾルはまず魔性の女クントリーに魔法をかけ、パルジファルの誘惑を命じる。彼はパルジファルという名前なのだが、この時点ではこの若者は素姓や生い立ちから、自分の名前も何もかも答えられない。
荒野を進むパルジファルの行く手は一瞬にして美しい花園に変り、美しい乙女たちが彼を色仕掛けで誘惑しようとする。その時絶世の美女になったクントリーが「パルジファル!」と呼びかける。パルジファルは彼女が語って聞かせる物語に自分の母を思い出して、彼女の接吻を受け入れる。しかし接吻は、彼に宿命 ― アンフォルタスの苦悩を理解させる契機となる。パルジファルはこの誘惑が罠であると悟ると、クントリーを退ける。
クントリーの助けを求める声に応じて、クリングゾルは城壁の上からパルジファルめがけてロンギヌスの槍を投げつけるが、不思議にも槍は彼の頭上で静止する。パルジファルはその槍をつかんで十字を切ると、魔法の城は崩れ落ち、花園は再び荒野に戻る。
自分が何者で、何をなすべきかはっきりとしたパルジファルはクントリーに、再び会うだろうときっぱりと告げて立ち去る。

初心に返った気合とその後の円熟の二つを併せ持ったような演奏〜60歳を超えてから聴くことをお勧めします。

カラヤンは、クラシック音楽史上最大のレコーディングアーティストであり、膨大な数の録音を行った。とりわけオペラはカラヤンの絶対的な得意分野であり、遺された録音はいずれも水準が高く名演も数多く存在しているが、その中でも最高峰に君臨する名演は、本盤におさめられたワーグナーの舞台神聖祝典劇「パルジファル」ということになるのではないだろうか。1979,80年デジタル録音。名エンジニア、ギュンター・ヘルマンスによる録音も、広大な空間性と、圧倒的な金管の響きに代表される克明さを両立させたきわめて高品位なもの。初期デジタル録音としては破格のクオリティで“カラヤン宿願のレコーディング”に見事に応えています。楽曲の把握の厳しさなどは、1950,1960年代の方が充実していると繰り返してきていますが、これは別格だ。
『パルジファル』はワーグナー全作品の中でも最も謎に満ちた捉えどころのない作品である。その謎を解明しようとするなら、キリスト教、異教、ショーペンハウワー哲学、再生の概念など、楽劇に含まれる様々な要素のどれひとつとして見逃すわけにはいかない。バイロイト祝祭劇場での上演経験が生かされた唯一の楽劇にして『パルジファル』の台本には、この世のものならぬ美しさと洗練を備えた霊妙な音楽が備えられた。ワーグナー特有の協和音と不協和音 ― 歓喜と苦悩の両義的な取り扱い及び全音階と半音階のからみあいが、いかなる単純な解釈をも拒んでいる。崇高さと、両義的な象徴主義、ならびに作品の奥底に流れる不穏な含みをもつイデオロギーが併置されることで、特異な表現力と魅力を有した作品として生みだされたものだ。
《パルジファル》の特徴はなんといってもオーケストラの醸し出す神秘的な雰囲気にありますが、その意味ではこの演奏の水準の高さはまさに空前絶後。当時のベルリン・フィルは本当に凄い音がしていました。前奏曲を聴いただけでも、カラヤンの深い傾注ぶりは如実に感じられるところ。音符が切れ目無く奏でられ、いきなりカラヤン・マジック全開。カラヤンのみならずオーケストラも気合の入り方が並大抵ではない。カラヤンにしてはむしろ珍しく表現意欲が全面に出ており、満を持してのレコーディングであったことを感じないわけにはいかない。当時のカラヤン&ベルリン・フィルは、鉄壁のアンサンブル、ブラスセクションのブリリアントな響き、桁外れのテクニックを示す木管楽器、雷鳴のように轟きわたるティンパニなどが一体となった圧倒的な演奏に、カラヤンが流麗なレガートを施し、それこそオーケストラ演奏の極致とも言うべき圧倒的な音のドラマの構築を行っていたと言える。本演奏においてもそれは大いに健在であり、どこをとっても磨き抜かれた美しさを誇るいわゆるカラヤン・サウンドで満たされていると言える。おそらくは、同曲演奏史上、最も美しく磨き抜かれた演奏と言える。ただ美しい音響などというこの指揮者の音楽への通俗的な批判のあてはまるレヴェルではない。1分とかからないうちに神話世界へと引き込まれ、4時間後には実に美しい終結を迎えます。この最後のフレーズも張りつめた緊張が徐々にピークに向って解放されていくカタルシスを感じさせるが、これもカラヤンには珍しいことではないだろうか。
有名な「聖金曜日の音楽」での溢れかえるような美の洪水、室内楽的と「指輪」でもいわれた音の塊に光を通すカラヤンの至芸がもう一段スケール・アップされて音楽がドライブされる。また第一幕の場面転換の箇所での豪壮にして荘重なサウンドなど、ベルリン・フィルとの長い共同作業の中でも、まず筆頭に挙げられるべき素晴らしい成果と言えるでしょう。同曲の数々の演奏の中でも、クナッパーツブッシュ&バイロイト祝祭歌劇場管による名演(1962年)と並ぶ至高の超名演と高く評価したい。もっとも、クナッパーツブッシュによる演奏とはその性格を大きく異にしている。クナッパーツブッシュによる名演がスケール雄大な懐の深い人間のドラマであるとすれば、カラヤンによる本演奏は、同曲の極上の絶対美を誇る旋律の数々を徹底して美しく磨き抜いた圧倒的な音のドラマとなっている。アムフォルタスの苦悩のモノローグも目覚ましく雄弁だが、あくまで人間のドラマとして描かれている。
このようなカラヤン&ベルリン・フィルが構築した絶対美の世界にあっては、歌手陣や合唱団もそれに奉仕する一つの楽器に過ぎないとも言えるところであり、これほどまでに美を徹底して突き詰めた演奏は、カラヤンとしても空前にして絶後の出来であったとも言えまいか。キャストも実に充実しており、パルジファル役のペーター・ホフマンは1幕は冴えず、2幕の「覚醒」あたりから良くなるのは、音楽が物語る通りで納得。この「覚醒」のクライマックスは、ヴェルディの「オテロ」の最後を思い起こさせる。とりわけ作品全体の要ともいえるクルト・モルのグルネマンツ役が絶品。宗教曲でいうところのエヴァンゲリスト。花の乙女役のバーバラ・ヘンドリックスや舞台上演では表情すらわからない天井から降ってくる合唱の一つであるアルト独唱にまでわざわざハンナ・シュヴァルツを招いて万全を期するあたりも、カラヤンならではの周到さです。
「70歳になったらパルジファルを」と常々口にしていたというカラヤンにとって、当盤はまさに宿願ともいうべきレコーディングだったようです。初心に返った気合とその後の円熟の二つを併せ持ったような演奏である。あらゆるオーケストラのパートが、ことばのように実に雄弁にドラマを語る。奏者は極度の緊張を要請されたに違いない。パルジファル役のペーター・ホフマンが、この録音のリハーサル中に曲の美しさに感動を抑えきれなくなったカラヤンが涙を流したというエピソードを語っていますが、日頃はどちらかというと警戒心が強い人柄と伝えられることが多かったカラヤンだけに、このオペラに対する思い入れが尋常一様ではなかったことが伺えます。

初版盤で鑑賞する価値あり

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  4. CD

    カラヤンはじめてのデジタル録音となったアルバム。《パルジファル》はカラヤンが70歳になったら録音したいと考えていた作品で、まさに念願叶った録音といえるでしょう。ベルリン・フィルの演奏も素晴らしく、究極のカラヤン美学が実現されている。第19回レコード・アカデミー賞オペラ部門賞を受賞しています。



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