
美しい旋律と魅力的な響きによる親しみやすい作風で知られたフランスの作曲家、ジュール・マスネは申し分のないメロディメーカーであり、誰が聞いても間違いなく彼の作品だとわかるような強い個性を持った、唯一的な芸術家であった。この時代、パリ・オペラ座で上演できる作曲家といえば、作曲の技量はもちろん、人望、体力、政治力など非常にマルチな才能に溢れたエリート作曲家に限られていた中で、マスネは最も多くの作品を上演していました。「タイス」は、そんなマスネが51歳の円熟期に書いたオペラです。
「タイス」は4世紀の北アフリカ・ナイル河畔の町を舞台に、娼婦の「タイス」と修道士「アタナエル」が繰り広げる破天荒な恋物語です。意欲的に取り組んだ作品でしたが、テーマの過激さが原因で初演は失敗してしまいます。しかし、マスネは諦めることなく大幅な加筆をし、再演にかけました。この改訂版が成功し、「タイス」は世界中で上演される人気作となったのです。

「タイスの瞑想曲」は、タイスがアタナエルの説得により娼婦稼業をやめ、改心して信仰の道に入ることを受け入れる重要な局面で流れる間奏曲です。およそ5分間の甘美なメロディーで有名なヴァイオリンの名曲ですが、この5分間には、タイスが娼婦をやめて信仰の道に入ることに悩み、受け入れるまでの心の動きが描写されています。そしてオペラ「タイス」には、間奏曲の後もこの《瞑想曲》のメロディーがたびたび登場し、オペラのテーマでもある「聖」と「俗」の葛藤を描く際の象徴的な音楽になっています。