カラヤンと華麗なるソリストたちの名演奏を聴く 第27盤 ブラームス ピアノ協奏曲第2番
独自の世界を貫いた美しいピアノの音色を引き立てる伴奏が光る
ベルリン・フィルにおけるブラームスの演奏の伝統は、1887年にブラームスの友人だったハンス・フォン・ビューローがベルリン・フィルの芸術監督に就任したときにさかのぼります。ヘルベルト・フォン・カラヤンがしばしば好んで語ったように、ブラームスの音楽の解釈について、ブラームスとビューローの考えは常に一致したわけではありませんでした。ビューローが正確なテンポに価値を置いたのに対し、ブラームスはより緩急のある感情表現を好んだからです。後に芸術監督となるフルトヴェングラーはブラームスの考えに共感し、優れた解釈で名をなしました。豊かでほの暗いオーケストラの響きと、テンポへの自由な扱いといった演奏スタイルは、カラヤンも受け継ぐことになります。
ブラームスの残した2曲のピアノ協奏曲はどちらも大曲です。2曲とも演奏時間が50分を越える演奏も有りますし、生半可な交響曲を軽くしのぐ雄大なスケールの作品です。管弦楽パートは実に充実して響きは分厚く、「ピアノ独奏を伴う交響曲」とも呼べるでしょう。事実当時のウイーンの評論家ハンスリックもそのように述べました。第2番は疑いなく古今のあらゆる協奏曲のジャンルの最高峰だと思います。さしもの「皇帝」でさえもひれ伏す、正に「協奏曲の王様」ではないでしょうか。曲の構成もユニークな全4楽章から成ります。通常の3つの楽章に更にスケルツォが加わるのです。
ブラームス48歳時の作品で、交響曲第2番や第3番によって、交響曲作曲家として確固たる地位を築いた頃の作品です。全体は「ピアノ・ソロを含む交響曲」と評されるように、4楽章からなる大曲です。通常、協奏曲は3楽章形式が一般的でしたが、ブラームスはこの曲の第2楽章にスケルツォ風の楽章を入れて4楽章にしました。そしてこの曲の第3楽章、独奏チェロが奏でる甘美な主題は、ブラームスの傑作中の傑作だと思います。ここではピアノは脇役にまわりチェロが大活躍します。チェロのしみじみとした独奏が長々と続くのも大きな聞きものです。そして、独奏チェロが少し遅れてオーボエと絡むところなど格別に美しく、その優しさに心も安らぎます。秋も深まった頃に聴くと一層に味わい深いです。
カラヤンはブラームスのピアノ協奏曲第1番を何故か一度も録音を遺さなかったがその理由はよくわからない。よほど彼にとってこの作品と合性があわなかったのだろうか、コンサートでもそれがブラームス・ツィクルスであったときさえ第1番の協奏曲は避けていたようである。幸い第2番の方はEMIにハンス・リヒター=ハーザー(1958年録音)とドイツ・グラモフォンにゲサ・アンダ(1967年録音)、いずれもステレオ録音、管弦楽ベルリン・フィルで名演を遺している。リヒター=ハーザーとのEMI録音の前、1954年のコンサートでゲサ・アンダとこの曲を共演している。その時から12年、指揮者とソリストは曲への更の理解を深めての録音となった。
54歳で亡くなったハンガリーの名ピアニスト、アンダによる〝ブラームスのピアノ協奏曲第2番〟は、技巧的な難しさよりも演奏の美しさが際立った名演奏として知られています。このピアニストは、弾き振りで録音していたモーツァルトのピアノ協奏曲で大変堅実な演奏をしていた。あらためて言うまでもないが、音楽は言葉を越えた芸術である。オーケストラの指揮者のプローベ、室内楽の練習、教師のレッスン、その他あらゆるシーンで言葉を使ってコミュニケーションがとられてはいるが、最終目標は音楽のレヴェルで語りあうことである。
この協奏曲は交響曲的な傾向が色濃い重厚かつ雄大な曲想の作品で、独奏者には高度なテクニックが求められる難曲ですが、難解な技巧など全く感じさせずにソロと指揮者とオーケストラが一体となって、美しさが際立つ流麗でダイナミックな演奏を繰り広げています。アンダが独自の世界を貫いた美しいピアノの音色を引き立てる、カラヤンとベルリン・フィルによる重厚な伴奏が光る。
ブラームスは1878年春、イタリア旅行の直後に、この作品のスケッチに取りかかっている。そのイタリア旅行で、ブラームスは深い感激を受けた。帰国すると早速、春から夏に移行するイタリアの印象を音楽化する曲を書き始めます。が、有名なヴァイオリン協奏曲、ヴァイオリン・ソナタ第1番などの作曲で、ピアノ協奏曲は中断をしていた。再度、1881年3月にイタリアを訪問し帰国後の夏には曲が完成した。初演は、1881年11月9日。ブダペスト、ブラームスのピアノ独奏。アレクサンダー・エルケルの指揮者だった。
第1楽章から、雄大で重厚なシンフォニックが始まるようで、導入主題で魅了されます。
第2楽章の弾むピアノ、躍動するピアノの旋律はブラームスの作品かと疑うほど。この作品の落ち着いた重厚さに加味された明るい朗らかさは、とても溌剌と感じられます。
第3楽章アンダンテでは、ヴィオラ、チェロが奏でる旋律の抒情的な美しさ。ピアノ協奏曲だったことを忘れ始めている頃合いで加わるゲザ・アンダのピアノ美しさが際立っているようです。ピアノとクラリネットのパートでは牧歌的な雰囲気も漂い現実から引き離してくるようです。
第4楽章アレグレット・グラツィオーソでは舞曲風な旋律を奏でるピアノ。作品も重厚なら、ゲザ・アンダのピアノも重厚な響き。この作品はピアノ協奏曲の難曲だそうですが、技巧を駆使していることなど感じさせないピアノの響きに魅せられます。曲に感銘を受けるというのは、こういう感覚かと教えてくれます。
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